ネコの命運

今日の診察では二件の新患さんがいました。
一件目は割とご年配の夫婦の方。ダンボールに風呂敷でやってきました。
ワクチンという話です。

前の方の会計をしている間私が体重はかりつつ、お話を聞いていました。


半年くらいまえから庭に来る野良。寒くなってきたし、おうちで飼うことにしようか、ということになり
まずワクチンを。という感じだそうでした。
もう大きさ的には大人の男の子でした。
野良とは思えないくらいおとなしくて、おっとりしていました。


ワクチンとともに健康診断していると、どうも歯茎がすごく赤い(歯肉炎)そして口内炎
今まで外にいたこと、熱もないし歯石もない、でも歯肉炎。
可能性として、ネコエイズにすでにかかっている場合もあるというお話をしました。


うちの病院では検査を強く勧めることはありません。
「知らない方がいいこと」もあるという感じです。
複数飼っている方や知りたいと言う方、疑わしい症状をすでにかなり出ている方などはする場合はあります。


なんだかエイズの話をしはじめたあたりから
「あら〜そうなの〜、そんな大変なのね。拾わなかったほうがよかったかしら…」と言っていました。
もちろんエイズ陽性でもすぐに発症するものでもありません。
治すことはできなくとも、対症療法などで維持することもできます。
ストレスをためないように、きちんと家猫で飼ってくれたら、そんなに今は支障はない。
そのようなことはきちんと話しました。


「そんなに大変なの〜」
「昔は出入り自由だったのに」
「ネコを飼うのも今は大変になったもんだ」


なんとなく消極的な空気…


とりあえずワクチンは打って、歯肉炎は様子を追ってみていくことなどで終えましたが
院長私ともども、あれじゃあもしかして放棄してしまうかもしれないなあ…と見解一致でした。
院長そのあともずっと「話さない方がよかったかな〜でも黙ってるわけにもいかないしな〜あれじゃあやっぱりやめようって戻しちゃうかもしれないな〜」とかなり気にしていました。


庭にいるときもゴハンあげるもあげないも
おうちに迎え入れるかどうかも
ほんの気まぐれのようで、
すごくもどかしい気持ち。


ほんの気まぐれでも、おうちに入れて飼ってあげようと思ってくれたことは本当にありがたいこと
そこからすごくお互いいい生活になれるかもしれない。
交通事故や、その他病気からも離れた生活ができて。
そんなネコだけでなくヒトにとっても大きく変わるかもしれない選択が
病気ならやっぱりやめようか、となってしまうかもしれないのは
なんとも言えません。


確かに昔は出入り自由な飼い方が普通。
いつの間にか帰ってこなくなったとかそんなのも普通。
「帰ってこなくなった」には交通事故とか、病気とか、あるいは虐待もあるだろうしどんな最期を迎えているか全く分からない。
死期が近いと姿を隠すとか言われていたけどそんなのはネコに聞かないと分からない。
本当は帰りたかったのに帰れない状況になってたかもしれない。
事故で死んでも、何があっても分からない。
それは飼育の責任放棄にも近いように感じます。
今では室内飼いを勧めるのは普通(かどうかは分かりませんが、そうしていきたい)



色々考えつつ、どうか面倒だなあという感覚でおうちのネコになる機会を捨てたりしませんようにと祈るしかありません。
二回目のワクチンに来てくれたときにどうなってるかわかるでしょうが…
すごく複雑でした。
杞憂に終わるといいですが!!





もう一件は若い男の人。
これまた拾ったネコを飼うことにして、まず検診とノミ駆除。
お話もきちんと聞いてくれて、今度はワクチンにやってくるでしょう。
ほんのささいなことも気にしてて、色々聞いてくる。
ネコを飼うのは初めての様子だったけど、試行錯誤しつつ、もうすっかり「うちの子」になってるのが分かる。
これからもおねがいしますって言われました。


きっとこれから15年20年と一緒に暮らしていって、これからの生活ずっと過ごしていくのでしょう。
いい関係になるといいなあ、と思いました。




野良猫の命運は本当にささいなきっかけにゆだねられているんだなあと実感。
あ、面倒だなってそれだけで全然一生が変わってしまう。
大切に飼ってくれて、動物のよさを分かってくれるヒト、この子とあえてよかったと思えるようなこと
あるといいなあと思います。