フィラリア検査と薬の摩訶不思議

読めるかな?

4月入り始めのころからすでにかなりの問い合わせの数が来ているフィラリア予防ですが
「早いなあ。ほかの病院さんはどうなってるんだろう」というのが印象。
いつも電話で長々と説明したり、まだいいから、絶対大丈夫だから、今度検査の時に説明しますね。と言ってみたり。
「前の病院では5月から飲んでいた」ということも多い。
「もう蚊がいるでしょう?」って言われたとか。



前の職場では7月からでした。
今の病院では、5月に入ってからの検査と、念のためで6月中旬から薬のみはじめのプログラムになっています。
どちらも根拠の文献が別なのですが、今の病院にきて更に納得。
全然そこからだって間に合うわけです。
「蚊がもういるから」なんて、今の時代年中蚊はいますよ!
(注:沖縄は一年中予防が必要ですが)



フィラリア、つまり犬糸状虫ですが、蚊と犬の体内でのサイクルがあります。
どっちがいなくても成長サイクルが成立しません。
なので陽性犬の血液を直接ほかの犬に輸血しても感染は成立しません。
蚊の体内で一定以上成長しないと、感染能はもてません。
糸状虫症は幼虫のことを「L1」(一期幼虫)とか「L3」とか成長段階で呼びます。
L1〜L5を経て、成虫になります。



犬の心臓に寄生しているのは成熟虫。大人です。
それが産卵して血液中に子虫(ミクロフィラリア。mfともいいます)を放出します。
なので
犬の血液中にうようよしているのはL1。
それが蚊が吸血しているときに蚊の体内に血液とともに移動する。
蚊の体内で成長する(L3まで)


で、
犬に感染する能力を持つのはL3。
それが10日ほどでL4に脱皮成長
さらにL5になるまでに約2ヶ月かかります。
そこから血管を通って最終的に心臓にたどり着いて、成熟虫になるのに半年(6〜7ヶ月)かかります



一般的に出ているフィラリア予防の薬はL4に対して効き目を表します。
(成虫にも若干効き目があるといいますが、成虫に効いても心臓に行き着く前になんとかせにゃならんのに、成長させてどうすんのってお話です。また強力に効き目を発して成虫が死んでしまうと、血管に詰まる可能性もあります)


つまり、5月にもし薬を飲み始めているってことは(L4までに2ヶ月かかるから)さかのぼって3月に感染していますよってことになります。
3月という雪も降りうる時期に感染してると思うなら、一年中したほうがいいでしょうに。
さらに4月からなんていったら、真冬からになっちゃいます。
配水管とか暖かいところで越冬した蚊に吸血されたら?というなら一年中すべきです。
(上に書きましたが沖縄は一年中です)



世にHDUという基準みたいなのがあります。
(Heartworm Development Unit)
フィラリア幼虫が発育に必要な積算温度単位といいます。
フィラリア感染の最終・最速の日付を計算しているものです。
毎年製薬会社から一覧表がやってきます。
説明は省きますが、フィラリア成長に必要な温度とか期間とかを踏まえた計算式みたいなもので
去年の都内では、感染確認一番早いときで5月10日ということです。遅くても5月24日。
(温暖化どうのといいつつ、去年や一昨年と比べてそんなに早まっているわけではないよう)
(手元に資料を置いてきてしまったので修正しますが)宮崎とかでも4月。
つまり5月に感染。それからL4に成長するまでに2ヶ月。その間に予防薬を飲めば大丈夫。
だから6月から予防薬を飲み始めても全然余裕があるわけです。
最終感染は11月9日になっています。
よってL3から10日間は成長に必要として11月19日以降に最後に薬を飲めばいいんです。


この辺を電話だったり、診察中であったりで説明するととっても時間がかかります。
でも理解してもらえると、安心して6月からの投薬してくれます。



またmf検査も投薬前に検査をしていると思いますが
(前年きちんと投薬している場合は免除する病院もあります。うちもそうです)
こちらは多くの病院が簡易キットでやっていると思いますが「成虫抗原検査」なのです。
糸状虫の成虫が排泄する微量物質に対する抗原を検査で調べます。
だから例えば血液中のL4やL5には反応しません(する場合もあるようですが、あくまで「成虫抗原」に反応するためのキットになります)
全てのキットがそうかは分かりませんが、2つのメーカーさんではそうでした。
(写真はあるメーカーさんのキットの使用説明書に書いてありました)
なのでこちらも上に書きましたが、感染より半年以上立っていないと検出できないわけです。
最終感染が10月や11月だったりしたら、4月に検査しても分からない場合がでてしまいます。
4月に検査して、はい、大丈夫ですね〜ってなっても、もしかしたらエラーかもしれないってわけです。



実は前の病院はキットではなく、直接顕微鏡で採取した血液をみるというものでした。
血液中にmfがいる場合は見つけられるわけです。
でも、正直検出精度はキットに比べて絶対的に低いです。
感染成虫がオス、あるいはメス一方のみだった場合、子虫はでてきません(オカルト感染といいます)
これはキットでしか分かりません。
またmfも蚊に吸われるべく、夜間に活発になるという活動周期があります。
ゆえにエラーの確率もかなりあるといえます。
(メーカーさんのリーフレットでは、顕微鏡検査の感度は47%、このメーカーさんの感度は90%となっています
メーカーの欲目があるかもですが…)
今の時代は予防率も高いので、濃厚感染する可能性も低くなっているので余計では…?


前の病院で、何年も外飼いしている犬で、ずっと予防していなかった子のをこの血液だけので検査して、マイナスでした。
そのとき「かなりの確率で感染してる可能性があるのに!?ちゃんと見たわけ!?信用できない!どうするんだ!!」とすごく怒られた記憶があります。
(勿論ちゃんと見ましたよ!外飼い、予防していないって分かってたので私だってかなり慎重に見ました)
でもじゃあなんでキット使わないのって、今なら言えるのになあ〜
よほど信用されていなかったんですかね…



そんなで、うちの病院では検査は5月に入ってから、投薬は6月半ばから、というプログラムになっていますが
勤務し始めに聞いて、とっても納得しました。
その前からよく勉強しとけって話ですが…世の中そんなもんかもしれません。。
努めた先がきちんと説明の上で予防プログラムを提示するか、盲目的に予防させるかの差みたいな。
盲目的に昔はうちのワンコも5月から薬飲んでいました。
そんな必要なかったんですよね〜


この辺は病院にいれば分かることだし、キットの説明書にもそのようなことも書いてあります。
「蚊がいるから」と4月や5月から投薬をすすめる病院があったら、是非聞いてみてください。
どうして4月からなの?と…
キットのエラーはどうなの?と…
盲目的にそう教わったからってなるかもですが、最近は獣医雑誌にもメーカーさんからの案内にもちゃんと書いてあるのですが…
でも私も今の病院来なかったら、キットが感染6ヶ月以前の感度が微妙って、知らなかったなあ。
改めて読んで、「うわっ、はっきり書いてあるがな!」と思ってしまいました。


最終感染の日付は追加で書きます。
また確認して加筆修正いたします。
→修正しました。
ちなみに宮崎では4月23日、最終は11月9日です。
やっぱり6月はじめでも間に合いますね。


たまには獣医っぽいことでも書いてみました。
参考にしておただけたら幸いです。