現場


奄美滞在二日目にして、大変なものを目撃しました。
よく「関係者各位は落胆の色を…」とか書かれてますが、関係者が目撃しちゃった場合は
落胆というか、もう言葉にならない、はあぁ…みちゃったよ…というような感覚でした。


初日に満足域まで見たいもの見えて(前回日記参照)もうあとはゆっくり観察しよう!
そんな感じで私の行きつけ(?)の場所まで車を走らす。
その時国道わきにクロウサギのおしりが見えた。
後続車がいたのでとまることもできないし、引き返しにくい。
「国道にも出てるんだな〜私も前国道で見たのどこだったっけな〜」と軽い気持ちで思っていました。
どうやら最近はそのあたりは国道沿いでもクロウサギが出るらしい。
クロウサギ注意!の標識もたっていました。


山入って、いろいろ見えて、写真もそれなりに撮れたあと、その帰り道。
国道に出てしまうともう気が抜けてしまうので、路上にひかれた生き物がいないか探しつつなくらい。



ノネコなんてもうまさに「どこにでもいる」のですが、多くの場合は車が見えるとダッシュで逃げてしまう。
今までの少ない経験からですが、逃げるのを躊躇している、やけに近づいてもじっとやりすごそうとしているネコは捕食中だったりすることがありました。
ダッシュで逃げたネコがいた場所まで全部チェックしているわけではないから言い切れませんが、躊躇していたネコのところには食べかけのネズミが落ちてたりとかはありました)
なのでノネコに対しては「ぱっと逃げないときは注」というのはありました。



その時も「あ、ネコだ」くらいにしか見てませんでした。
車が近づいていくのに逃げない。あ、もしかしてなんかあるのかな?とは思いつつ。
(まだこの時点で「ネズミか路上でひかれた何かとかだろう、確認してみよう」程度にしか思っておらず)
かなり近づいてやっと、ネコの下(足元というか)におなじくらいの大きさの黒いかたまりがあるのが見えてきた。
「あ、やばい、今とんでもないことがおこっている」と一気に心拍数があがるような、もうケナガネズミ以上に頭がまさかでいっぱいになる瞬間。



すれすれまで来てやっとネコが立ち去る。とはいっても反対車線でずっと最後まで見てたけど…相当執着している様子。
同乗者はここまででネコが黒いものにくらいついてて、口を放したときにぼとっと大きなもの(頭部)が地面に落ちたのが見えて、やばいと思ったそう。
私はもう生きているのかいないのか、搬送しないと、連絡しないと、とそんなことで頭が大慌て。


黒いもの、クロウサギでした。
まだ幼獣(サイズからして、と翌日の解剖から精巣下降してなかったのでそう思いましたが、言いきれないそう)
まだしっかりと温かい、今まさに死んだんであろう状態。
喉元に喰らいつかれてた痕(唾液)があるくらいで外傷も何もない。
ネコのとらえ方っていろいろあるだろうけど、相手が大きければ気道圧迫で窒息させるのもあるんかな(チーターとかも)
死体写真を大きなサイズで載せるのもなんですが、歯の跡はここら辺

左の矢印はちょっとはっきりいいきれませんが、右矢印はまさにそう。
(なんとかこれが写るように写真を撮ってたから)



林道でクロウサギを見てきたところだったので、まさかじかに触ってしまうとは…
しかも行きがけに見た個体?
さっきまで生きてたのに。


ちょうど行きにおしりをみた場所にたぶん近い、反対車線。
もしかして交通事故体を運んでいたのかも、とも思いましたが
事故にあるような外傷も骨折もなく(頭がぐっしゃりしちゃってるとかもなく、眼底出血などもなく)
出血している様子もない。
側溝があるのでこれを路上から運ぶのも相当大変だと思うのと、引きずった跡もなく、ウサギが道路側に頭を向けてたのからも、ネコが路上から運んだというのは考えにくかった。
(首もって引きずるはずなので、向きが逆になるはず)


深夜一時だったので、慌てようにもセンターに電話もできないし(それ以前に圏外)
とりあえずクロウサギは明日にでも搬送しなければいけないということで、車にあった袋に入れてとりあえず場所を離れる。
その間本当にずっとネコが見てた。
彼(?)にとったら超のつくごちそうだったんだろう。
知らないところでこうしてたくさんの生き物が食われているのだろう。
ネコも痩せているような感じもありませんでした。



なおし兄に電波が入った時点で連絡して、とりあえず冷蔵庫を借りる
(外に置いておけば死体の状態はすぐ悪くなってしまうので)
こんなとき普通のホテルとかだったらまずできないだろう、ありがたかった。
深夜なので誰にも連絡できない不安もあったかもしれない、それもありがたかった。
改めて明るいところで見る。
奄美にはずっとかかわってきて、こういう事例があるのは知ってはいたけど、まさか自分がその現場を目撃してしまうとは。
しかも滞在二日目で。
どうやら実際に襲われている場面というのは初めてらしい。
(捕食中の目撃例はあるそうで、私の記憶ですが襲いかかっているところを追い払ったという話もあったような)
知らなかったら大変な事態であるということも分からなかったかもしれない。
一般の観光客よりも目撃したのが自分でむしろよかったのかも、とも思います。



もう気分どんよりで、ビールどころではない夜。
落胆というかショックというか、あ〜やっぱそうかあ…というような
初日にケナガネズミを見せてきて、翌日これは濃いというか、現実を見せ付けられたかのよう。



翌日は朝いちばんで野生生物保護センターへ。
意図せずセンターにも行けるとは。
かろうじてレンジャーさんは知っている方だったのでちょと安心。
せっかくなので、と外部計測や解剖(解体に近い)も立ち会わせてもらいました。
もちろん臓器損傷もないし、内出血もない。交通事故とは考えにくい。
しかしウサギが見たいとは思ってたけど…中まで見てしまうなんて。



広報に関しては自分ではどうしていいのかわからなかったけど
なおし兄や奄美で活動している野生動物関係の知り合いの方がいろいろ手配してくれて、新聞にも載ることになりました。
南海日日新聞、大島新聞には載っているはずです←地元紙。全国紙にはどうなるか不明)
ネコは実際クロウサギを襲っている。
ネコや犬の適正飼育やノネコ、ノイヌ問題を提起するのに追い風になってくれたら、少しでも奄美の役にたてただろうか。 いや、たてなければいけない。
野生動物に「ご冥福」もなにもないけど、見てしまったからには最大限に活用するしかない。
当時はもうあわてていてそれどころじゃあなかったけど、ノネコとウサギが写っている写真がもし撮れていたら
と少し悔やまれる(そんな冷静にできるわけないですが)
しかし新聞にとかってどうやってやるのだろうか、協力なくては本当に何もできなかった、感謝しきりです。




あのネコが悪いというわけではない、ノネコを作り出してしまったのだからひとが悪いとしかいえないけど。
あのネコはそれなりに憎たらしい。
これでネコがかわいそうだからどうのとか言われても、こうして日々殺される在来種がいるというのに、何が、どっちがかわいそうなんだろう。